Behind the Scenes - 美しい帽子が生まれる場所
〜 ニッキ・マーカートのアトリエ 〜
2021年の今年、ドイツ・ミュンヘンの帽子ブランド、ニッキ・マーカート(Nicki Marquardt)は創業25周年を迎えました。モナドでは2014年秋冬コレクションからお取り扱いを開始。以来、その洗練されたデザインと確かな品質が多くのお客さまに支持されています。
この特集では、ちょうど5年前の2016年にミュンヘンのアトリエを訪れたときの様子と共に、ニッキ・マーカートの美しい帽子の数々がいかにして生み出されるのかをご紹介します。
※MONADブログ「ニッキ・マーカートの帽子制作現場に潜入取材(!)」(2016年10月26日)に写真を追加し、この特集用に再編集したものです。
●赤いロゴが目を引くショップ
ニッキ・マーカートのショップ兼アトリエは、美術館やギャラリー、大学、さまざまなショップ、カフェやレストランが立ち並ぶミュンヘン市街地の中心街にあります。
大きなロゴ入りの看板が一際目をひきます。
1996年創業時には同じ通りの別の場所にあったショップを、2001年に現在の場所に移転。第二次大戦中に街の大部分が破壊されたミュンヘンの街に残る数少ない戦前の建物だそうで、歴史的建造物に認定されています。外装などの大規模改装はできないそうですが、それでも、広くなって、立地や雰囲気をとても気に入っているとのこと。
入り口を入った手前側がショップになっています。
●奥のアトリエの様子
その奥にアトリエとオフィスが続きます。
この日は、パリ展示会の直前ということで、翌春夏の新作モデル作りが大詰めを迎えていました。
花にみたてた羽根飾りに、スワロフスキーを丁寧に縫いつけていきます。
すべての工程が手作業です。ドイツならではの職業教育とマイスター制度が、物づくりの伝統を支えています。
デザイナーのニッキは、3mm という極細のスイス製クランを使って、デモンストレーションをしてくれました。
クラン(crin)は馬の尻尾の毛を使った素材のことで、19世紀半ば頃から欧州で広まったスカートを膨らませるペチコートの素材といえばイメージできるでしょうか。たとえば、このような華やかなヘッドピース(ファシネーター)の制作に用いられます。
現在、3mmの極細タイプを扱えるミシンは出回っていないのですが、それを可能にしているのが、100年以上昔に製造されたこのミシン。
そして、25年以上のキャリアが為せる匠の技です。
●卓越した技術、厳選された素材
アトリエには色とりどりの素材がズラリ。
デザイナーのニッキいわく、素材と向き合いながら、どうすれば素材のポテンシャルを最大限引き出せるかを常に模索しているとのこと。
たとえばこのヘッドピース。型紙のようなものがあるわけではありません。ミシンで縫い進めながら、カタチを作り上げていくのだそう。途中で継ぎ接ぎすることもありません。
こちらもクチュール作品ですが、イタリア・ミラノの 4mm の稲わら素材を使用。デザイナーが新たに開発したスパイラルソーイングのテクニックを駆使して作られています。
彼女のマスターピースであり、2012年に権威あるデザイン賞であるレッド ドット デザイン賞を受賞した折りたためる帽子に使われているのは、セルロース90%とコットン10%で構成される日本製TOYOペーパー。
しなやかで滑らか。緻密に織られていますが、通気性に富んでいますので、かぶり心地も快適です。
こちらのサマーハットは、くるくるっと丸めてバッグにしまうことができるのですが、それは非常に丈夫な天然素材アバカ(マニラ麻)のブレード(組紐)で作られているから。アバカは耐久性・耐湿性に優れ、非常に軽いのが特徴です。また、塩水に強い唯一の天然繊維ですので、ビーチで濡れても安心です。
2015年夏、英国エリザベス女王のドイツ訪問時に、ドイツを代表する帽子デザイナーの一人として女王陛下のために特別にデザインしたこちらの作品。イタリア・ミラノの 3〜4mm の稲わらを使ったブレードを編んで、女王陛下お好みのトップハットのスタイルに仕上げ、動きのある遊びの要素を加えて華やかさを演出しています。
●特注のフェルト素材
秋冬に欠かせない素材といえば、フェルト。ニッキ・マーカートのフェルトはすべて最高級ラビットファー(兎毛)製。発注者の要求仕様に基づいて製造する世界でも数少ないポルトガルの生産者から特注のファーフェルトを仕入れています。
ファーフェルトはとても柔らかくてあたたかいだけでなく、通気性と防水性に優れています。濡れると形が崩れやすくなるウールフェルトに比べて、水に強いので雨や雪に遭っても形を保てるのです。
フェルトは、熟練の木型職人によってスタイル毎に作られる木型を使って成型していきます。帽子の美しいフォルムは木型で決まると言っても過言ではありません。この積み上げられた木型の数がニッキ・マーカートのキャリアを物語っています。
ハンサムなフェドーラの高低差のあるトップクラウンもこの木型から生まれています。
冬に人気のニット帽に使われているのは、イタリア産ベビーアルパカウール。アルパカヤーンの生産を専門とし、国際アルパカ協会の会員でもあるイタリアの生産者から調達している最高品質のベビーアルパカです。柔らかく軽いにもかかわらず、羊毛の3倍の強度をもつので美しい艶が失われることはありません。
●さまざまなコラボレーション
ニッキ・マーカートの上質でスタイリッシュな帽子の数々は、VOGUE誌などのファッション誌に度々取り上げられています。
またパーティーやウェディングなどのスペシャルオケージョンのためのカスタムメイドの帽子はもちろん、オペラや劇などの舞台用の帽子制作も手がけています。
訪問した9月下旬はちょうどオクトーバーフェスト(Oktoberfest:世界最大規模のビールの祭典)の最中でしたが、下のような伝統的な帽子(もちろんニッキ流にアレンジ)も作っています。
妥協なき帽子づくり。デザインと制作のすべてが、ここミュンヘンのアトリエで行われています。また、新素材、色、シルエットの研究から、プロトタイプ制作まで、イノベーションが生まれる場所でもあるのです。
デザイナーのニッキ(中央)、彼女のもとで極意を学びながら、日々、帽子作りに励んでいるスタッフ。2021年現在では、10名のスペシャリストチームで帽子制作に取り組んでいます。
皆さんとってもフレンドリーです。ミュンヘンにご旅行などで行かれる際には、ぜひ立ち寄られてください。「モナドで知った」とおっしゃっていただければ(英語OK)、帽子のあれこれやスタイリングのアドバイスをしていただけるはずです♪